「バイリンガルに育てたいなら、幼児期から英語を始めるべき?」
「小さい頃から英語を始めることにメリットってあるの?」
「英語の早期教育は、日本語の発達に問題ある?」
子どもの英語の早期教育。
お子さんの教育に関心がある親御さんなら、一度は悩む問題だと思います。
また、小学校の英語の教科化や大学入試の4技能テスト導入などの知らせ聞いて、子どもの英語学習について焦りを感じている親御さんもいらっしゃると思います。
ほかにも
「英語の臨界期は…」
「LとRの音を聞き分けられるのは…」
など、英語の早期教育について、さまざまな情報が飛び交っていて、どれが本当なのか判断するのがむずかしいですよね。
(それも無理はありません。英語の早期教育の有効性や意義については専門家の間でも意見がずっと対立しています…。)
そこで、今回は現在に至るまでの研究・調査を踏まえながら、なるべくフェア(平等)な視点に立って、英語の早期教育の有効性やメリット・デメリットについて、「わかりやすく」解説していきたいと思います。
そのため、お子さんに早くから英語を習わせるべきか迷っている方は、参考にしてみてくださいね!
目次
【英語学習にはリミットがあるの?】
英語学習の「臨界期」はあくまで”仮説”
英語の早期教育で必ず話題にのぼるのが「臨界期」。
臨界期は、「特定の能力を身につけるのに最適な時期」のことをいいます。
英語や日本語(母国語)の習得について説明されるとき、この「臨界期(または”敏感期””などと呼ぶ)」という言葉をよく耳にすると思います。
また、英語教材の宣伝・広告でも、
「◯歳までが臨界期のため、英語はできるだけ早くに始めるべきだ!」
なんて謳われたりしますよね…。
ただ、まず大前提として知っておいていただきたいことは、
「臨界期は”母国語”の習得に最適な時期」
のことを指している点です。
つまり、日本人であれば「日本語」の習得時期ですね。
ですので、一般的な臨界期をそのまま単純に第二言語である「英語」に当てはめるのは、間違っているということになります。
とはいっても、第二言語の習得でも臨界期がある可能性を示す研究があります。
海外移住時の年齢と英語能力の関係性についての研究
さまざまな年齢でアメリカに移住し、5年以上住んでいる中国人や韓国人の移民の英文法能力を調査した研究があります(*¹)。
この研究では、被験者に冠詞やイディオムの使い方などの小さな間違いを含む文章を見せ、正しいかどうか尋ねました。
テストは簡単で、英語が母語なら6歳でも楽々正解しますが、17歳以降に英語を学び始めた移民はたくさん間違えるという結果が得られました。
また、テスト結果を移住した年齢で比較すると、以下の結果もわかりました。
●7歳までに移住
→ネイティブスピーカーと同レベルの成績
●8歳~10歳に移住
→ネイティブスピーカーより若干低い成績
●11歳~15歳に移住
→さらに成績低下
●17歳以降に移住
→低いレベルの第二言語能力しか持ち得ない
それ以降は年齢と英語能力に関係が見られず。
このように、年齢を経れば経るほど、第二言語の習得能力は低下することがわかります。
ですが、8歳以降に移住してきた人たちがいくらネイティブ並に英語を扱えないといえど、決して「第二言語を習得できない」わけではありません。
ただ単にテストの成績がネイティブよりは悪いだけで、第二言語をある程度扱うことはできます。
また、ここで注目すべきは、
「8歳を過ぎても第二言語はかなり習得できる」
というこです。
この点から、「英語を焦って早く始めなくてもいい」という考えも出てきます。
それについて、もう少しだけ深堀りしていきましょう!
【言語には”世界文法”がある!】
母国語の習得が第二言語にも影響する。
先ほどご紹介した研究から、以下のことがわかりました。
●7歳までに移住
→ネイティブスピーカーと同レベルの成績
●8歳~10歳に移住
→ネイティブスピーカーより若干低い成績
ただ、ここで大事なのは、
「8歳を過ぎても第二言語はかなり習得できる」
ということです。
その理由について、紐解いていきましょう。
まず、8歳以降に移住してきた人々は、移住する前に母国語をすでに獲得しているといえます。
また、言語には「世界文法」があると考えられています。
この考えはマサチューセッツ工科大学の言語学および言語哲学の研究所教授のノーム・チョムスキー氏による考えですが、脳科学的にみても妥当であることが示されています(*²)。
そもそも、私たちは元々ひとつの「人類」という集団でしたか、そのうち、それぞれが世界中に移住して、今の「~人」などに分類されていきました。
そのため、言語においても、元々「根っこ」の部分は一緒で、そこからそれぞれの言語が発生してきたと考えられます。
その「根っこ」の部分が「世界文法」と言われるもので、専門用語では「深層構造」などと言われいます。
(ちなみに、英語や日本語などの「個別言語」は、”深層構造”から表面化したものとして「表層構造」と言われていmす。)
そして、この世界文法の形成に関わる部分が脳にもあります。
それが「ブローカ野」という脳領域で、音声言語と文法に深く関わっています。
幼少期には、基本的に日本語(個別言語)に触れますよね。
そうすることで、脳のブローカ野を発達します。
その結果、「世界文法」をしっかりと学ぶことができるので、第二言語である英語の習得にもプラスの影響をもたらすと言えます。
(つまり、母国語をもとにして、第二言語を学ぶようになります。)
また、言語を学ぶときは、臨界期だけでなく「学習容易期」もしっかりと理解しておく必要があります。
「学習容易期」は、臨界期とまではいきませんが、特定の能力を比較的身につけやすい時期です。
先ほどご紹介した研究をもとにすると、学習容易期は17歳がひとつのリミットになります。
つまり、しっかりと母国語を学んでおけば、17歳までは第二言語を比較的スムーズに学ぶことができるともいえます。
ここまでを踏まえたように、あくまでも巷で言われている英語の臨界期は“一つの仮説”に過ぎないということをしっかりと理解しておくことが大事になります。
【英語の早期教育の効果は?】
英語の早期教育がもたらす5つのメリット
英語の早期教育についてはさまざまな研究がなされています。
そのなかで、まずは英語の早期教育のメリットについて明らかになっていることをご紹介します。
それは以下の5つです。
①考え方が柔軟になる
②思いやりのある子どもに育つ
③英語への抵抗感・恥ずかしさを持たない
④音の聞き分け・発音の流暢さ
⑤将来の認知症の発症が遅くなる
英語の早期教育は上記の5つのメリットをお子さんにもたらすと言われています。
では、それぞれのメリットについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
①考え方が柔軟になる
まず、早期の英語学習のメリットとして「考え方が柔軟になる」ことが言えます。
(専門用語を使うと「実行機能」が高まることがわかっています。)
これを示す面白い研究があります。
基本的に4歳までの子どもは一度決められたルールを変えられると、新しいルールに対応するのに時間がかかり、苦労します。
ですが、3~5歳のバイリンガルの子どもを対象に同じルール変更を行ったところ、スムーズに対応できる子どもが多いことが明らかになりました(*³)。
つまり、バイリンガルの子どもは、話し相手や環境などによって言語を使い分けているため、その分、状況や文脈に応じて、自分をコントロールして、判断する能力が優れていることがわかります。
また、急なルール変更や出来事があっても、それに対して柔軟に対応する能力が比較的高いことから、「問題解決能力」も高まることが報告されています。
②思いやりのある子どもに育つ
多言語を使える子どもは、単一言語の子ども(モノリンガル)よりも他者の立場に立って者後を考える能力が高まることもわかっています。
多言語を扱うことのできる子どもは、どの言葉で話すと相手にとって一番わかりやすいかを常に考えているため、その分、思いやりのある子どもに育ちやすくなると考えられます。
また、それによって、子どものコミュニケーション能力も高まるという結果も出ています(*⁴⁻⁶)。
③英語への抵抗感・恥ずかしさを持たない
これは、あくまでも経験論になってしまいますが、年齢を経れば経るほど、新しい言語への抵抗感や恥ずかしさが強くなっていくことが多いです。
僕も過去に学習塾で中学校に英語を教えつつ、オールイングリッシュの幼小の子どもを対象にした英語教室で働いていましたが、やはり、幼いお子さんほどレッスン中の発言は積極的でした。
また、文法などを気にする必要がないので、なんとか自分の使える英語で伝えようとがんばっている姿も見受けられました。
もちろん、幼少期から間違った英語学習や無理やり読み書きをやらせようとすることで、英語嫌いに育ててしまうリスクもあります。
ですが、その一方で、早く英語に触れさせて、まずは「楽しさ」を感じさせてあげることで、英語への抵抗感や恥ずかしさを持たせないようにすることもできると思います。
そのため、そういった意味で、英語を早く始めさせるのも個人的には良いと思います。
④音の聞き分け・発音の流暢さ
音の聞き分けやキレイな発音を求めるのであれば、より早くネイティブの先生とコミュニケーションをとったりして、生の音に触れる機会を設けてあげることは大切です。
幼児期~小学校低学年の間に英語にふれることで、「聞く力」「聞き分ける力」が身につきます。
わかりやすい例でいうと、「L」と「R」の発音です。
ワシントン大学学習科学研究所の研究では、「L」「R」の区別は生後8ヶ月~10ヶ月頃までに学ぶという発表があります(*⁷)。
そのため、この研究を参考にするなら、英語はなるべく早い段階からがよく、生後8ヶ月くらいから英語を聞き流せる環境を整えることが効果的と言えます。
また、小さい頃のお子さんは、聞いたまんま音をそのまま口に出すこともできます。
(僕も幼稚園児の子どもとネイティブスピーカーのやり取りを聞いて驚きました…。)
そのため、英語の聞き分けやキレイに聞こえる発音を身につけてもらいたい場合は、早めにネイティブの発音に触れさせることも大切です。
(ただ、発音に関しては、後でも矯正すれば、比較的改善されるので、どのくらい重視するかはご家庭で判断してください。)
⑤将来の認知症の発症が遅くなる
2016年の研究によって、多言語を話す人は成人になって認知症の発症が4年半遅くなるという報告があります(*⁸)。
このことから、多言語を扱うことができると、加齢による認知能力の低下など遅らせる可能性があることがあります。
また、言語というのは私たちの考え方だけでなく、健康状態にも影響を与える可能性があるといえるかもしれません。
【英語の早期教育の悪影響は?】
英語の早期教育がもたらす2つのデメリット
次に、英語の早期教育がもたらすと言われるデメリットについて解説していきます。
それは以下の2つです。
①母国語の語彙力が下がる
②単語を思い出しにくくなったりする
(もどかしい体験が多くなる。)
では、それぞれのデメリットについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
①母国語の語彙力が下がる
幼少期から外国語を学ぶと母国語の語彙力が下がることという報告(*⁹⁻¹⁰)があります。
これは仕方のないことで、脳に容量があり、それはある程度決まっています。
そのため、外国語を学ぶと、その分、母国語を収納できるスペースが小さくなります。
その分、単一言語の子どもより、どうしても語彙力が下がってしまいます。
(ただ、2つの言語をを合わせると、母国語の子どもと同等の語彙力があることも知られています。)
ですので、このようなデメリットがあることはしっかりと把握しておくことが大事になります。
②単語を思い出しにくくなったりする
バイリンガルの人は大人になってから、単語を思い出すのに時間がかかったり、思い出せなくてもどかしい体験をすることが多いことも知られています(¹¹)。
そのため、これらのデメリットもしっかりと頭の片隅においておきましょう。
【英語を始める年齢よりも大事なこと】
継続して英語に触れ続けることが大切!
英語学習や英語教育の話になると、決まって
「いつから?」
ということがテーマにされますよね。
もちろん、今の今まで解説してきたように、「英語を始める年齢(時期)」は大切です。
ですが、それともう一つ大切なことがあります。
それは、
「継続的に英語に触れること」
です。
子どもの外国語学習を研究するペンシルベニア大学教育大学院のバトラー後藤裕子准教授は、
「わずかな英語学習にどれだけ意味があるかどうかもわからない」
とおっしゃっています。
つまり、日本にいて、週に1,2回ネイティブの先生による英語のレッスンを受けたところで、どれくらい効果をもたらしているかどうかわからないということです。
また、バトラー氏の著書『英語学習は早いほどいいのか』では、スペインで英語を学ぶ児童を対象にした研究があります。
その研究では、意外なことに、発音などの音声関連のテスト結果と学習開始年齢は相関性がなく、むしろ、影響したのは「授業時間」だったことがわかりました。
つまり、英語を始めた時期よりも、英語の触れている時間のほうが、発音などの音声をチェックするテストには大切な要因であることを示しています。
そのため、英語を始める時期を考えると同時に、どうすれば継続的に子どもに英語を触れさせてあげられるかを考えることも大切になります。
【さいごに】
英語学習の目的をまずは決めるべき!
ここまで、英語の早期教育の時期やメリット・デメリットなどについて解説してきました。
世界的に見ると、多言語を話す国は全体の50%と言われています(*¹²)。
ヨーロッパのほとんどの国は二か国語以上が公用語となっています。
ただ、日本は島国であることもあり、国内にいるぶんには日本語だけで不自由さを感じることはありません。
ですが、今後海外人材が国内に入ってきたり、逆に海外で働きたいということになったとき、最低限、会話ができる英語は必要になります。
ですので、
「何のために子どもに英語を学んでもらうのか」
をご家庭ではっきりと決めた上で、英語の早期教育をほどこすか決めることをおすすめします
【参考文献 / Reference】
1.サンドラ アーモット (著), サム ワン (著), 開 一夫 (翻訳), プレシ 南日子 (翻訳)『最新脳科学で読み解く 0歳からの子育て』
2.澤口 俊之『「学力」と「社会力」を伸ばす脳教育 』(講談社+α新書)
3.Cognitive Complexity and Attentional Control in the Bilingual Mind(Ellen Bialystok)
5.Communication Skills of Bilingual Children(Fred Genesee, etal.)
6.Bilingualism and conversational understanding in young children.(Siegal M, Iozzi L, Surian L.)
7.パトリシア・クール教授(ワシントン大学)『赤ちゃんの超言語力』
10.Language and Literacy in Bilingual Children(Kimbrough Oller, Rebecca Eilers)
12.Bilingual: Life and Reality(François Grosjean)