「子どもが上手な絵を描いて見せてきた!」
「子どもが新しいことをできるようになった!」
このような場面や状況に遭遇すると、子どもをいっぱい褒めてあげたくなりますよね!
大事な大事な子どもを見守る親御さんにとって、このような成長を間近で見られると、心底うれしいと思います。
また、親御さんによっては子どもについついお菓子やおもちゃなどをプレゼントしたりすることもあると思います。
ですが、このようなときにむやみにほめたり、ごほうびをあげたりすると、今後子どもは新しいことに挑戦しなくなったり、ほめられるために特定の行動をするようになる危険があります…。
つまり、子どもの「ほめ方」は、今後のお子さんの行動や挑戦に大きな影響を与えるのです。
そこで、今回は、お子さんにプラスの効果をもたらす「上手なほめ方」のポイントと具体的な方法についてわかりやすく解説していきます。
そのため、お子さんに良い効果を与える褒め方を知りたい方はぜひ参考にしてみてくださいね!
目次
【こんな褒め方はぜったいNG!】
子どもを褒めるときの5つのポイント
お子さんを褒めるとき、その言葉かけひとつで、良い効果をもたらすこともあれば、
悪い影響を及ぼすことも…。
お子さんが良いことや偉いことをしたから褒めているのに、それが悪い影響を及ぼしていたら、本末転倒ですよね…。
そこで、ここではお子さんを褒めるときにお母さんお父さんに意識してほしいポイントをご紹介します。
それは以下の5つです。
①子どもの才能を褒めない
②子どもの「努力(過程)」を褒める
③「結果・成果」を褒めない
④ごほうびで子どもを釣らない
⑤物質的な報酬よりも”言葉の報酬”を与える
これら5つのポイントを踏まえた上で子どもを褒めてあげると、新しいことにチャレンジし、どんどん努力を重ね、自分の脳力やスキルを高めていく主体性のある子どもに育ちます。
そこで、それぞれのポイントについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
①子どもの才能を褒めない
「子どもが一生懸命絵を描いて見せてきたので、『すごい上手な絵だね!絵を描くセンスがあるんだね!』と褒めてあげました!」
「一生懸命勉強して、テストでよい点数を取ってきたので「頭がいいね!素晴らしい!」とよしよししてあげました!」
このようなご報告を日々保護者の方々からいただきます。
このようなお子さんの行動や成果を見ると、ついついいっぱいほめてあげたくなりますよね。
ご自分のお子さんががんばったとき、それを褒めてあげることはとても大切です。
ですが、先程のケースでは、ひとつだけ改善すべきポイントがあります。
それは「子どもの能力・才能」を褒めている点です。
子どもの褒め方についての研究はさまざまなものがあります。
そのなかでも特に有名なのが、スタンフォード大学のキャロル・S・ドゥエック教授の研究です(*¹)。
この研究を通して、「子どもの才能・能力」にフォーカスして褒めると、その子どもは新しいことや難しいことにチャレンジしなくなるという衝撃的な結果が報告されています。
というのは、子どもは「頭がいい!」「絵の才能がある!」など能力・才能を褒められると、
「頭がいい=問題が解ける」
「絵がうまい!=自分が描き慣れているものを描く」
といった状態をキープし、失敗を避けようとします。
そうすると、自然と自分が今までやったことのないものや難しそうなことにチャレンジしなくなりやすいのです。
(ちなみに、先程の研究では、「能力・才能」をほめるグループより、ほめないグループのほうがより難しい問題にチャレンジすることもわかっています。つまり、その子どもの能力をほめるなら、まだほめないほうがいいとも言えますね…。)
そのため、なにか子どもが成し遂げたときに、その才能や能力に重点をおいて褒めるのはやめましょう。
②子どもの「努力(過程)」を褒める
先程ご紹介した研究で有名なキャロル氏は子どもの褒め方について、
「子どものプロセスを褒めるべきだ!」
と主張しています(*²)。
プロセスとは具体的、子どもの「努力」や「やり方」「集中力」「忍耐力」「進歩(成長)」です。
そのため、子どもがなにか新しいことをできるようになったときは、そこに至るまでの努力や戦略、集中力などについて言葉にして褒めてあげることが大切になります。
また、子どもがたとえば何かに挑戦して失敗したとしても、その結果を責めるのではなく、できるかわからないことに挑戦したその「チャレンジ精神」であったり、成功させるためにおこなった「努力」をしっかりとほめてあげることが大事です。
そうすることで、子どもは、新しいことにチャレンジするときに持ちやすい”恐怖心”を乗り越え、どんどん未知のことに挑戦できるようになります。
さらに、努力をできるようになるので、自分のできなかったことをどんどん達成すると同時に自信を高め、自己肯定感などにもつながることも期待できます。
そのため、お子さんを褒めるときは、その“プロセス(過程)”をほめてあげることを意識してみましょう。
③「結果・成果」を褒めない
褒めるときには「結果・成果」に重点をおいて褒めるのも避けるようにしましょう。
先程も解説したように、”成功”という結果や成果だけをほめてしまうと、子どもは失敗を恐れて、新しいことにチャレンジしなくなってしまいます。
また、失敗をしたときに、その結果に対して厳しく責められるとチャレンジ精神はもちろん、自信をなくすことにもつながり、自己肯定感にも悪影響を与える危険があります。
ちなみに、キャロル氏はワシントン大学のゲーム・サイエンティストと組んで、「結果・成果」を褒めることによる影響を調査する実験もおこないました。
これは、オンライン数学ゲームを生徒にやらせ、「プロセス」に対して報酬を与えることで、どのような影響・効果がもたらされるかを調べた実験です。
通常の数学ゲームであれば、
「答えが合っているかどうか」
に対して、点数やポイントなどの報酬が与えられますよね。
ですが、この数学ゲームでは、生徒が問題を解くために用いた「努力」「解き方」「進歩」に対して点数を与えて、スコアを算出しました。
その結果、とても難しい問題にぶつかったときほど「解き方」「取り組み時間」、「忍耐力」が増加するという結果が得られました。
つまり、「結果や成果」ではなく、「プロセス」を評価することで、より努力ができ、熱心に取り組めるようになるといえます。
もちろん、ときに「結果」は大切です。
ですが、小さい頃から結果を重視しすぎて、お子さんの自信やチャレンジ精神を削いでしまうと、将来に悪い影響をもたらす危険もあります。
そのため、お子さんをほめるときは、その結果・成果にフォーカスしすぎないように注意しましょう。
また、失敗したときやうまくいかなかったときは、結果・成果を責めるのではなく、次にどうすればいいか一緒に考えてあげることが大切になります。
④褒めるときに他の子どもと比べない
褒めるときに、
「◯◯君より点数がよかったね!すごい!」
「△△君に勝てたね!」
というように、他のお子さんと比べて褒めるのは避けるようにしましょう。
もちろん、スポーツの個人戦などでは、そのような褒め方を時にしてしまうと思います。
ですが、絵の上手さやテストの点数の高さなで、親御さんがそのような褒め方をすると、そのお子さんは常に「他の子ども」と比較するようになります。
もちろん、切磋琢磨できるライバルがいることで、刺激を受けてより努力するケースもありますし、そのような環境も大切です。
ですが、褒めるときに限っては「◯◯君より~」というように他人と比較する必要はありません。
また、このように他の人と比較するクセをつけると、子どもに有害なストレス・プレッシャーがかかるケースもあれば、「◯◯君もやっていないから、僕もやらない」というふうに引きずられてしまうケースもあります。
そのため、比較するときには「過去の自分と比較」するようにしましょう。
そうすることで自然と「成長」や「進歩」、つまり、先程も解説した”プロセス”を褒めることができます。
また、褒めるときに限らず、子どもがなにかできなかったとき、失敗したときに「◯◯君に比べてあなたはダメね」と、他の子と比較して責めるのもNGです。
このような責め方や叱り方をすると、お子さんの自信をなくし、自己肯定感を下げるとともに、自尊心を傷つけてしまうことも…。
そのため、褒めるとき・叱るときに関係なく、他の子どもと比較するのは避けるようにしましょう。
(これは経験論ですが、こちらが言わなくても、本人が心のなかで対抗心を燃やしているケースも多々あるので…、特に男の子は…。)
⑤物質的な報酬よりも”言葉の報酬”を与える
子どもを褒めるときに、その一環として物質的な報酬を与えることはあまりオススメできません。
プレゼントをあげてはいけないということではなく、
「~ができたから報酬を与える」
というようなインセンティブ形式がオススメできないということです。
このようなインセンティブに関する実験はさまざまなものがあります。
それらの研究をまとめると、子どもの努力や成果に対して物質的な報酬を与えると、子どもの内側から出てくる「やりたい!」という気持ちでや「楽しい!という気持ちを薄れさせてしまうことがわかっているからです(*³)。
(ちなみに、このような内側からのやる気やモチベーションを「内発的動機づけ」と言いいます。)
ですので、物質的な報酬、つまりプレゼントなどを与えるときは、子どもの努力や成果とは関係なく、「サプライズ」としてあげるようにしましょう。
くれぐれも「◯◯を買ってあげるから、~して」などというようなやり方は採用しないようにしましょう。
また、実際、物質的な報酬よりも、言葉の報酬、つまり”ほめ言葉”のほうが効果が高いとの報告もあります(*⁴)。
そのため、子どもがなにかがんばったときは、物質的な喜びではなく、“精神的な喜び”を与える意識をしてみることも大切になります。
【”褒めすぎ”は逆効果!】
年齢・発達の別の褒め方のポイント
褒め方は年齢・発達によって変わってきます。
4~5歳児は、11~12歳の子どもと比べると、ほめられる内容よりも、ほめられた「回数」が多いほど、自分の能力が評価されていると実感できる傾向があることが分かってきました(*⁵)。
(0~3歳は、愛情表現のひとつとして、たくさん褒めてあげましょう。)
そのため、先ほどの”褒めるときのポイント”を踏まえた上で小学校入学前は”回数”を意識してみることをおすすめします。
また、小学生以上になると、子どもも賢くなってくることもあり、いつもほめられる環境にいると、脳がそれを当たり前に感じてしまい、行動が強化しづらくなる傾向があります。
ですので、小学校に進学したら、子どもが充実したプロセスを踏んだ「ここぞ!」というときに褒めてあげるようにしましょう。
【そもそも褒める目的って?】
褒めるときに常に念頭においてほしいこと
ここまで褒め方のポイントについて解説してきました。
そして、ここでは、今更ですが褒める意味にについて考えてみてましょう。
子どもを褒めることで、
子どもの自信を付けたり、
自己肯定感を高めたり、
モチベーションをアップさせたり
などの効果を期待できます。
ですが、個人的な意見としては、褒める目的は、
「しなやかな心」
を育てることだと考えています。
「しなやかな心」のことをキャロル氏は「成長型マインドセット」と読んいます。
「成長型マインドセット」とは、わかりやすくまとめると、
「自分の能力・スキル自体は、自分の努力次第で向上する」
という考え方です。
つまり、自分の能力は”開発”できるものと考えているのです。
この「成長型マインドセット」を持っている人は、自分ができないことや難しいことに直面したときにも、それに挑戦し、乗り越えようとする姿勢を示します。
一方で、「自分の能力は生まれつき固定されたもので、努力しても変わらない」というような「固定(硬直)型マインドセット」を持っている人は、難しい課題にぶつかったときに、挑戦せずにあきらめてしまいます。
それだけでなく、失敗に対して惨めに感じたり、自分よりできが悪い人を探すことで安心を求めたりすることも…。
私たちのように子どもと関わる大人は指導者であれ、親であれ、子どもにこの「しなやかな心」つまり、「成長型マインドセット」をもってもらえるように「褒める」ことが大切だと考えています。
そのため、褒めるときには常にこのことを念頭においていただけると嬉しい限りです。
【さいごに】
プラスのもたらす褒め方が大事!
ここまで、ほめるときのポイントやその意味などについて解説してきました。
「褒める」という行為は、あなたのお子さんの成長には欠かせません。
ですが、むやみに褒めたり、ご褒美をあげると、お子さんの能力やチャレンジ精神に悪い影響を与えてしまうことも…。
そのため、次からお子さんを褒めるときには今回解説したポイントを踏まえて、実践してみてくださいね!
【参考文献 / Reference】
2.キャロル・ドウェック : 必ずできる!― 未来を信じる 「脳の力」 ―TED
3.Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation.(Deci, Edward L.)
4.Financial Incentives and Student Achievement: Evidence from Randomized Trials(Roland G. Fryer, Jr)
5.Developmental study of praise and blame as attributional cues.(Barker, George P. Graham, Sandra)