昨今、さまざなところで幼児教育が注目され始めています。
また、現在に至るまでのさまざまな研究から、幼児教育は脳科学の観点から見ても重要だということがわかってきました。
ただ、そう言われても、「幼児教育が脳の発達にどんな影響をもたらすのか」いまいちピンときていない方も多いのではないでしょうか。
たしかに、脳は構造自体が複雑ですし、間違った刺激を与えてしまうと、逆に脳の発達に悪影響をもたらしてしまうリスクもあります。
そこで、今回は「(乳)幼児教育と脳の発達」に関して、脳科学の観点からわかりやすく解説していきます。
そのため、(乳)幼児教育がもたらす脳への影響を知りたい方、これから幼児教育をはじめようと思っている方は、ぜひ参考にしてみてくださいね!
目次
なぜ、幼児教育が重要なのか?
まずは、なぜ(乳)幼児教育が大切なのかについて、脳科学の観点をふまえて解説していきます。
私たちの脳には、ニューロン(別称:神経細胞)というものがあり、それが情報を伝える役割をしています。
このニューロンは、以下の図のように、核を持つ細胞体とそこから伸びる樹状突起、そして軸索の3つから構成されています。
この軸索の先が他のニューロンの樹状突起とつながることで、「神経回路」ができ、情報が伝達されるようになります。
神経回路は、いわば情報が伝わるための架け橋のようなものです。
そして、この軸索と樹状突起をつなぐ役目をするのが「シナプス」というものです。
つまり、脳の中にあるたくさんのニューロンがシナプスによってつながることで、脳ははじめて情報を伝達できるようになり、それによって私たちはさまざまな活動をできるようになるということです。
また、ニューロンは、赤ちゃんがお腹の中にいる胎児期から作られはじめ、誕生する頃にはほぼ一生分ができていると言われています。
ですが、シナプスの数は誕生した時点では少ないため、ニューロン同士のつながりはほとんどありません。
それゆえ、赤ちゃんは視力がまだぼんやりしていたり、言葉を話すことができないのです。
つまり、赤ちゃんが生まれたら、まずやるべきは、ニューロン同士をつなぐシナプスの数を増やすことです。
そこで大切になってくるのが、「0歳からの(乳)幼児教育」なのです。
ただ、ここでの「教育」とは何かの知識を教え込んだり、暗記させたりすることではなく、お母さんお父さんとの触れ合いやいろいろな体験を通して、子どもの脳にさまざまな刺激を与えることを意味します。
シナプスは、生後8ヶ月〜3歳くらいまでには、密度のピークを迎えます。
ちなみに、ピークにばらつきがあるのは、視覚野や聴覚野など、脳の中の領域によって発達の時期が異なるからです。
そして、この時期を過ぎると、必要なシナプスは強められて残り,不要なシナプスは除去されるようになります。
これを、専門用語で「シナプス刈り込み」と言います。
そのため、この刈り込みが始まる前に、(乳)幼児教育を通して、なるべく多くの刺激を赤ちゃんの脳に与えることが大切なのです。
そうすることで、シナプスの数が増え、お子さんが後々身につけるさまざまな能力の土台ができあがるのです。
加えて、3歳までに適切な刺激を与えることで、シナプスの密度は高くなり、神経回路の結びつきも強くなります。
そうなれば、たくさんの情報が早く伝わるようになり、結果的に決断力がついたり、器用に手足を使うことができるようになるということです。
また、このようにシナプスの数を増やして、結びつきを強めておくことで、刈り込みが始まっても、より多くのシナプスが残るようになります。
赤ちゃんの脳は、成長が著しい反面、使わない神経回路はどんどん処分してきます。
ですので、早いうちからさまざまなトレーニングを通して、脳を使わせることで、シナプスを増やし、情報の伝達に必要な「神経回路」を増やしておくことが大切なのです。
ここまでのことを踏まえると、まずは1歳になるまでに、あらゆる脳の領域を刺激して、できる限りシナプスを増やすことが、その子どもの人生の選択肢を増やすことになります。
また、3歳までは毎日が学習の場・成長のタイミングだと思って、適切な刺激を与えてあげることが必要です。
脳のどの領域に刺激を与えるべき?
(乳)幼児教育が脳の発達に与える影響を、より深く理解していただくためにご紹介したいのが『ブロードマン脳地図』と呼ばれるものです。
この『ブロードマン脳地図』では、大脳を働きによって53の領域に分け、地図のように番号をつけたものになっています。
図をみていただければわかるように、大脳は「前頭葉」「頭頂葉」「後頭葉」「側頭葉」のに分られ、さらに前頭葉の前方を「前頭前野」と呼んでいます。
前頭前野は、すべての行動を決定する、いわば「脳の司令塔」のようなものです。
この領域には、物事を一時的に記憶する「ワーキングメモリー」を使う時に働く46野や、次の行動を予測したり、まねをするときに働く44野などが含まれています。
また、子どもが自分の手足を動かすときにも必ず46野が働いて、どのように動くか決定してから、その情報を4野や6野の「運動野」に伝えて、実際の動きにつながります。
この前頭前野の一番前にある10野の「前頭極」は、人間にしかない特別な領域で、同時に二つのことをこなしたり、物事を計画的に進めたり、感情をコントロールするときになどに働きます。
ちなみに、この領域は5歳から特に発達が目立ちますが、お母さんやお父さんの関わり方次第で刺激を与えることができます。
このように、脳にはさまざまな領域があり、それぞれ別の役割や働きを持っています。
また、乳幼児教育を通して、今ご紹介した領域をたくさん刺激してあげることが大切なのです。
年齢別で見る脳の発達と刺激の与え方
次に、年齢別に見たときの脳の発達と刺激の与え方について解説していきます。
ここでは、シナプスの密度が増えやすい0歳~2歳までをご紹介していきます。
そのため、今後、乳幼児教育を行うときの大まかな目安にしてみてくださいね!
①0歳
0歳の時点でニューロン(神経細胞)はほぼ作り終えていますが、シナプスの数が少ないため、ニューロン同士のつながりはほとんどありません。
そのため、この時期は、脳にさまざまな刺激を与えてシナプスの数を増やしてあげることが大切です。
先程もお伝えしましたが、シナプスの密度が最大になるのは、生後8ヶ月~3歳です。
また、シナプスの密度が最大になると、「見る」「聞く」「触る」など、その領域の基本的な動きができるようになると言われています。
加えて、この時期にシナプスの数を増やしておけば、後に「シナプス刈り込み」が始まっても、減少はゆるやかになり、何もしなかった場合よりも、より多くのシナプスが生き残ります。
そのため、この時期は、話しかけたり、スキンシップをたくさん取ったりするとともに、さまざまな刺激を与えてシナプスの数を増やすことを大切にしましょう。
②1歳
1歳は、はいはいから歩けるようになる時期ですので、まずは2本足でしっかりと立って、歩けるようにすることに重点をおいて、トレーニングしましょう。
また、この時期は、前頭前野が成長する貴重な時期でもあります。
というのも、足を一歩踏み出すだけで、前頭前野がその強さや方向などを決定し、筋肉へと情報を伝達するために働くからです。
また、歩きながら何かを見たり、聞いたり、触ったりすることで、前頭極(10野)も刺激でき、脳の発達に大きな影響を与えます。
さらに、歩くことによって背筋を伸ばした姿勢を安定して、長時間保つことができるようになると、座った時の姿勢も安定して、両手を使った作業もできるようになります。
加えて、この時期から、手や道具を使って遊ぶ習慣をつけることで、自分が作りたいものを作ったり、手順を考えて何かに取り組むことを覚えるようになります。
そのため、この時期はお散歩に積極的に連れて行ったり、積み木や折り紙などの道具を使って積極的に手を動かすように促すのが大切です。
③2歳
2歳は、脳が「臨界期」を迎える時期です。
臨界期とは、感覚刺激に対する反応が非常によくなる時期のことで、主に2歳から3歳半ごろまでを言います。
感覚刺激とは、名前からもわかるように聴覚や視覚、嗅覚、味覚、触覚などへの刺激のことです。
そのなかでも、2歳は最も感覚刺激を受け入れやすい時期だと言われています。
逆に、この時期に適切な感覚刺激を与えないと、この後、どんなに刺激を与えても反応が鈍く、刺激をうまく受け入れることができなくなってしまいます。
そのため、この時期は意識して感覚刺激を与えていくことが大切です。
また、臨界期における感覚刺激は、その子どもの一生を左右するものになると言われています。
そのため、豊かな感受性を身につけてもらうためにも、本物や良質なものを与えることを意識しましょう。
例えば、視覚であれば色鮮やかな絵や動く動物、聴覚であればいい音や音楽、嗅覚であれば花の香りや緑の匂いといった感じです。
このように、強弱や濃淡を意識して、さまざまな刺激を与えることがポイントです。
また、お母さんが子どもにたくさんのスキンシップをしてあがることで、触られると「気持ちい」という感情が起こってきます。
そうすると、側坐核というところで「気持ちいい」という快感がおこり、前頭葉の発達を促します。
ちなみに、運動には臨界期がないとされていませんが、早い時期から動かし方を練習すれば、その分、早く、上手になっていきます。
そのため、この時期からどんどん体を動かさせて、基礎を作っておくこともポイントです。
また、この時期から社会性や人間力を高めていくことも大切です。
ここでの社会性や人間力とは、集団で遊んだり、周りの人と上手に関わるためにルールを守っていく力です。
この力の基礎を築いていくのが2歳の時期です。
そのため、子どもが2歳になったら親子で関わり合うだけではなく、公園など同じくらいの年齢の子どもたちが集まる場所に連れていって、集団の中で遊ばせるようにしましょう。
幼児教育は非認知能力を養うためにも大切!
みなさんは、非認知能力という言葉をご存知ですか?
非認知能力とは、忍耐力や自制心、好奇心など目には見えない力ことを言います。
幼児教育と聞くと、IQや学習能力を高める知育、あとは英語の早期教育などをイメージする方が多いと思います。
ですが、そんなことはありません。
むしろ、乳幼児期は脳に刺激を与えつつ、この非認知能力の土台を築いていくことが大切なのです。
この非認知能力の重要性を示す研究の一つに、「ペリー幼稚園プログラム」があります。
このプログラムは、シカゴ大のジェームズ・ヘックマン教授らによる研究で、一時期大きな話題にも登りました。
ペリー幼稚園プログラムの概要と結果
「ペリー幼稚園プログラム」は、1960年代から開始された実験です。
(40年以上の追跡調査ってすごく大規模ですよね…)
この実験で対象になったのは、アフリカ系米国人の3~4歳の子どもたちでした。
そして、この子どもたちやその家庭に対して、以下の就学前プログラムが施されました。
①幼稚園の先生は修士号(大学院卒)以上の学位を持つ児童心理学等の専門家に限定。
②子ども6人を先生一人が担当するという少人数制
③午前中に約2・5時間の読み書きや歌などのレッスンを週に5日、2年連続受講。
④1週間につき、1・5時間の家庭訪問
上記のようなとても手厚いサポートをされました。
また、これに加えて、親御さんに対しても子育てのアドバイスや注意点などをおこうことで、“親御さんが学べる機会”を積極的増やしました。
そして、このペリー幼稚園プログラムを受けた子どもと、残念ながら受けることができなかった子どもとの間で比較がおこなわれました。
その結果、このペリー幼稚園プログラムを受けた子どもには以下のような特徴が見られました。
●6歳時点でのIQが高い
●19歳時点での高校卒業率が高い
●27歳時点での持ち家率が高い
●40歳時点での所得が高い
●40歳時点での逮捕率が低い
つまり、ペリー幼稚園プログラムによる幼児期の介入は、その子どもの学歴や雇用、経済状態などに継続的に影響を及ぼすことがわかったのです。
非認知能力の重要性
先ほどご紹介したペリー幼稚園プログラムでは、子どものIQだけでなく、将来の年収や雇用、逮捕率など、さまざまな面に影響を与えることがわかりました。
ですが、もう一つ興味深い結果が得られました。
それは何かというと、「子どもの学力やIQ」です。
ペリー幼稚園プログラムによって、たしかに子どもたちの小学校入学後のIQや学力テストの成績が上昇したことがわかりました。
でも、その後も観察を続けると、
ペリー幼稚園プログラムを受けた子どもとそうでない子どものIQの差は、小学校入学(6歳)とともに小さくなり、ついに、8歳前後で差がなくなったのです…。
ちなみに、IQなど数値化できるもの、つまり、目に見える力を「認知能力」といいます。
(自制心や非認知能力は、目に見えない、つまり認知できないから「非」認知能力と言うんですね。)
この結果を受けて、ヘックマン教授は、子どもの将来に大きな影響を与えるのは「IQ」だけではなくて、忍耐力や自制心、好奇心などの「非認知能力」で、ペリー幼稚園プログラムでは、その部分が育てられたと結論付けました。
ですので、幼児期は、この「非認知能力」を意識して、養うことが大切なのです。
非認知能力や幼児教育の重要性に関しては以下の記事でより詳しく解説しているため、気になる方はこちらもチェックしてみてくださいね!
さいごに
今回、「(乳)幼児教育と脳の発達」に関して、脳科学の観点からわかりやすく解説してきました。
ここまで解説してきたように、乳幼児期は脳が一生の中で最も発達する貴重な時期です。
そのため、子どもの発達に合わせて適切な刺激を与えることがとても大切です。
また、ここまで解説してきたようになにかを教え込んだり、暗記させたりするのが幼児教育ではありません。
幼児教育は、お母さんお父さんとの関わり合いや、さまざまな体験を通して、お子さんの脳に適切な刺激を与えることを言います。
そのため、お子さんに少しでも豊かな人生を送ってもらいたいと思っている方は、今回解説したことを参考に、今の時期からいろいろな刺激を与えてあげてくださいね。